落っこちちゃったお星さま

 その日は、星のきれいな夜でした。こんな夜は、よく猫たちが集まって、仲間と仲良くお話をするものです。
 では、犬たちは?リードにつながれていたり、家の中にいたり。なかなか外では自由に遊べない?
 いやいや、案外、ご主人さまが寝静まったころ、ふしぎな力を使って、こっそり家を抜け出して、猫たちみたいに楽しく遊んでいるかもしれません。だって、犬ってよくお昼寝してるでしょ?ご飯を食べて、お散歩をして、ちょっと遊んで、おやつをもらって…。だけど、あとは案外スヤスヤ寝てばかりいるものですよ。それはきっと、夜中にみんなで集まっていっぱい遊んでいるからかもしれませんね。

 そして、ここに、そんなふしぎな力を使って、みんなで楽しく集まっている犬の仲間たちがいました。
 ジャーマンシェパードのライナ君。シェルティーのゆう君とサクヤちゃん。ラフコリーの風太君。豆柴のコマチちゃん。そして、ミックスのミカド君。
 みんなは、ふとしたことから、ふしぎな力で通じ合い、それからそのふしぎな力をみがきにみがいて、ご主人さまが寝静まったころ、こうやってこっそり集まることができるようになったのです。

 さてさて、そんな楽しい集まりの中、シェルティーのゆう君とサクヤちゃんが、そっとぬけ出してお散歩。近くに流れる小川ぞいの道を、二つのシェルティーの影が、月明かりに照らされながら、仲良くならんで歩いています。
「夜のお散歩は、なんだか涼しくていいでちゅね~。」
 サクヤちゃんは、気持ちよさそうにそう言いました。
 ゆう君は、なんだか照れくさそう。
「サクヤちゃんと二人っきりで夜のお散歩なんて、おデートみたいで照れくさいでちね。」
 二人ともニコニコしながら歩いていました。
 そうやって、しばらく歩いていると、おや、ゆう君は何かを見つけました。
「んっ?サ、サクヤちゃん!小川の土手のところ、何かぼんやり光ってるでち。いったい何でちかね?」
 見ると、確かにぼんやり光るものがあるようです。二人はおそるおそるその場所に近づいてみました。すると、お星さまの形をしたものが、光りながら横たわっていました。
「ゆうお兄ちゃん!お星さまでちゅ!お星さまがこんなところに落ちているでちゅ!」
 そう言われてゆう君がのぞいてみると、確かに星の形をしたものが光っています。
「ホントでち…。でも、お星さまにしてはなんだか弱々しい光でちね?」
 ぼんやりと光るそのすがたは、お空の星ほどキラキラしていません。あたりをどうにか照らしているくらいで、その光り方を見たら、ゆう君にはまだお星さまとは信じ切れない感じでした。
 すると、何か声が聞こえてきました。
「た、助けて…。お願い…。あのお空に帰して…。」
「んっ?サクヤちゃん、何か言ったでちか?」
「言ってないでちゅよ?」
「そうでちか?何か聞こえたような気がしたでちけど。」
 気のせいかな、ゆう君がそう思った時、また
「助けて…。お空に帰して…。」
 確かに聞こえてきました。そして、それはサクヤちゃんにもはっきり聞こえました。
「お星さま?お星さまがしゃっべったんでちゅね?どうしたんでちゅか?」
 ゆう君も続けて言いました。
「助けてって…、いったい何があったんでちか?」
 すると、お星様さまは、息苦しそうに、でも、がんばって、自分の身に起きたことを説明してくれました。
「実は…、いつものようにお空で気持ちよくキラキラ光っていたら、流れ星さんがぶつかってきて…。それで気を失って、気がついたらこんなところに落ちていたの。夜のうちにお空に戻らないと、わたし、光を失って、ただの石ころになっちゃうわ。だからお願い、助けて…!お空に帰して…!」
 そう言い終わると、お星さまはまた苦しそうで息があらくなってきました。
「ホントにとっても苦しそうでちゅ。助けてあげたいでちゅ!」
「そんな話を聞かされたら、ほっとけないでち。しかたないでち。急いでみんなのところに帰って、力を借りるでち!」
 サクヤちゃんの背中にお星さまをのせて、二人はみんなのところに急ぎました。

「みんな~!力を貸すでち~!助けるでちよ~!」
 息せき切って、ゆう君たちがみんなのところに帰ってきました。その大あわての様子に、ライナ君が声をかけました。
「どうしたのだ~?何をそんなにあわてているというのだ~?」
 ゆう君は、みんなに今あったできごとを、いっしょうけんめい説明しました。最初は、何を言っているんだ、と、信じられないようすのみんなでしたが、ゆう君とサクヤちゃんの必死なすがたに、しだいにみんな引き込まれて、だれもが信じるようになりましした。
「というわけで、お星さまをお空に帰さなければいけないんでち。みんなの力が必要でち。お願いでち!」
 みんなも、なんとかお星さまをお空に帰してあげよう、そんな気持ちになりました。
 すると、風太君が、みんなに問いかけました。
「でも、何をどうすればいいなの~?お星さまをお空に帰すって、やり方がわからないなの~。」
 その言葉に、お星さまは、また息苦しそうな声で答えました。
「このあたりで一番高いお山のてっぺんから、暗いお空に高く高く投げてくれれば、あとは自分の力でお空に帰れるの。みなさん、お願いします。帰してくれたら…、そう、みなさんのお願いごと、必ずかなえますから!お願いします!お願い…!」
 そんなお星さまのつらそうなすがたを見て、もう、みんなは何とかしてあげたい気持ちでいっぱいです。
 さて、そこで、彼らのふしぎな力を使えば、お山のてっぺんなんてすぐに行けそうですけど、ふしぎな力は一日に二回だけしか使えません。一回目はこうやってみんなで集まる時に、二回目はそれぞれのご主人様のところに帰る時に。ここでふしぎな力を使ってしまうと、今夜はご主人さまのところに帰れなくなってしまいます。そんなことになったら、きっと大騒ぎ!だから、ここは走っていくしかないみたいです。
「でも、このあたりで一番高いお山って、あの日本一のお山なの~。僕たちがどんなに早く走っても、夜明け前までに間に合うかどうかは、ギリギリなの~!」
 そのとおり。みんなが遊びに来た町には、日本一高いお山がありました。あそこならお空に一番近いのですけど、あのお山のてっぺんまで登るなんて大変なことです。
 心配性の風太君、不安で不安でしかたがありません。だけど、元気のいいミカド君が、こう言ってみんなを元気づけました。
「ここでこうやって考えてたって、時間だけが過ぎていくだけだぜ。とにかく、みんなでそのお山のてっぺんまでお星さまを運んでやろうぜ。」
 この言葉に、みんなは勇気づけられました。
「お星さま、きっと、きっと間に合うでちゅよ!だから、元気出してくだちゃいね!」
 お星さまは、サクヤちゃんの言葉がうれしくてたまりませんでした。
「ありがとう…、ありがとう…!」
「とにかく急ぐのだ~!みんな、出発なのだ~!」
 六つの犬たちの影が、日本一の高い高いお山に向けて走り出しました。

 お山は走っていくにつれて、だんだんだんだん道がけわしくなってきました。にんげんたちに比べて、はやく走ることができる犬たちも、ここまでずっと走りどおし。さすがに息も切れてきて、苦しそうです。でも、だれも弱音をはいたりしませんでした。みんなみんな、歯を食いしばって、けわしい山道を必死に走っていきます。
 走っていることに夢中で、お星様さまのようすを見ることをしばらく忘れていたみんなでしたが、そのうち豆柴のコマチちゃんが、お星さまの苦しそうなようすに気がつきました。
「ねえ、お星さまの光、なんだかさっきより弱ってるみたいでした~!息も苦しそうで、なんだかかわいそうでした~!」
 コマチちゃんは足を止めて、サクヤちゃんの背中に乗ったお星さまの心配をしていました。
 それを聞いて、ゆう君もお星さまのことをのぞき込みました。
「それだけ夜明けが近くなったんでちよ。だから光も弱いし、息もあらいんでち。早くしないと、石ころになっちゃうでち!」
 サクヤちゃんの背中の上で、お星さまは弱々しくて申しわけなさそうな声でいいました。
「ごめんなさい…。夜が明けてしまうと、もうもどれないから……。それに、みなさんのお願いごとも、わたしが夜のお空に帰って初めて光った時に言ってくれないと、かなえることができないの……。お願い…!急いでください…!お願い……!」
 お星さまは、もう息がとぎれとぎれです。見ていてかわいそうなくらいです。
 ライナ君は
「もうしゃべらなくてもいいのだ~!光り方もどんどん弱くなっているのだ~!これ以上しゃべったら、お空に帰る力もなくなっちゃうかもなのだ~!」
と言って、お星さまの心配をしていました。
 とにかく、走るしかありません。こんなにお星さまが弱っているのだから、ゆう君が言うとおり、夜明けがせまってきているのでしょう。みんな、けつまづいたり、すべったり、大変な思いをして、でも決して走ることをやめません。
 先頭はライナ君、続いてミカド君。前の方でみんなを元気づけてひっぱっていきました。
「がんばるのだ~!」
「あと少しだぜ!」
 サクヤちゃんが続きます。
「お星さま、がんばってでちゅ!」
 お星さまをのせているサクヤちゃんの後ろを支えながら、ゆう君が走ります。
「サクヤちゃんもファイトでちよ!」
 その後ろを、体の小さなコマチちゃんが走っています。
「がんばるでした~!」
 一番後ろは風太君。小さな体のコマチちゃんを心配して、時々後ろから押してくれています。
「すべっても転んでも、僕がいるから大丈夫なの~!がんばれなの~!」
 そんな風太君、コマチちゃんのおしりを押し上げていたら、お空のようすが目に飛び込んできました。
「あっ!東のお空がだんだんうすむらさき色に変わってきたなの~!もう夜明けが近いなの~!」
 それでも、先頭を行くライナ君たちはあきらめないで、しっかりみんなをはげましていきました。
「大丈夫なのだ~!お山のてっぺんはもうすぐそこなのだ~!」
「ホントにあとちょっとだ!みんな、がんばれ!」
 だけど、近くに見えているはずのお山のてっぺんは、走っても走ってもなかなかそこにはとどきません。やっぱり日本一のお山。かんたんには登ることなんてできないようです。
「はあはあ。もう間に合わないかもでち。」
 ゆう君はあきらめかけていました。いいえ、ゆう君ばかりではありません。みんなも、つかれはてて、苦しくて、なかなかその先の一歩をふみ出せないのです。
 ライナ君は決心しました。
「もうこうなったら、あのふしぎな力を使うのだ~。」
 それを聞いて、みんなはおどろきました。それを使ったら、今夜のうちにご主人さまのところへは帰れなくなってしまいます。でも、みんなは少し考えて、すぐににっこり笑って言いました。
「賛成でち。こうなったらとことんつきあうでち。」
「そうだな。お星さまのためだ。ここは自分たちのことより、お星さまのことを考えてあげようぜ。」
 ゆう君とミカド君がみんなの気持ちに代わって答えてくれました。
「では、みんな、ふしぎな力であのお山のてっぺんまで行くのだ~!」
 ライナ君がそう言うと、スウッと六ワンのすがたは消えてしまいました。そして、あっという間に、みんなはお山のてっぺんに立っていたのです。

 お山のてっぺんの六ワンたち。不安げに東のお空を見てみると、うすむらさき色だったのがだんだん明るくなってきて、その明るさが少しずつ広がっていこうとしていました。でも、西の方のお空はまだまだ暗くて、ほかのお星さまの光が見えています。
「じゃあ、空の暗い方、西のお空に、早速帰してやろうぜ。」
 ミカド君がそう言った時、サクヤちゃんがとんでもないことに気がつきました。
「ねえ。どうやったら、お星さまをお空に飛ばすことができるんでちゅか?」
「あっ?」
 みんなびっくりぎょうてん!さあ、ここまできて、大変なことになってしまいました。
「いったいどうしたらいいなの~?」
 みんな考え込んでしまいました。そうしているうちに、お空の明るさは、西へ西へと…。
 と、ゆう君の目に、ライナ君がしっぽをいつものようにブンブンと勢いよくふっているのが飛びこんできました。そして、思いつきました。
「そうでち!ライナっち!ライナっちの長くて強いそのしっぽでち。そのしっぽではじき飛ばすでち。」
「それなのだ~!一番体の大きなオイラがしっぼでお星さまを飛ばすのだ~!それしかないのだ~!」
 とんでもない名案が浮かびました。
「サクヤちゃん!オイラのうしろに、そのお星さまをおくのだ~!」
「あいっ!」
 サクヤちゃんは、大切に背中に乗せていたお星さまを、ライナ君の後ろにそっとおきました。そして、
 パッカ~ン!
 ライナ君のしっぽはみごとにお星さまをはじき飛ばしました。お星さまは高く高く飛んでいくと、そのうちに自分の最後の力をふりしぼって、さらに高く高く飛んでいきました。
 それを見て、みんな大よろこび!うれしくてうれしくて、つかれも忘れてピョンピョン飛びはねました。
「やったでち!うまくいったでち!西の暗いお空に高く高く飛んでいってるでち~!」
 お星さまは、空高く飛びながら、みんなに向かってこう言いました。
「ありがとう!ホントにありがとう!さあ、早く、早く…、お願いごとを…!」
 そうでした、お願いごとでした。確か、お星さまが夜のお空に帰って初めて光った時にお願いごとを言わないと、かなえることができない、そうお星さまが言っていました。
「あっ?お願いごと…!早く、お願いごとを言うでした~!」
 大あわてのコマチちゃん。もちろんみんなも大あわて。東のお空の明るさが、西のお空にせまってきています。
「ライナっち、急いでお願いごとでち!」
 ゆう君がライナ君をせかしました。
「え~と、え~と……。も、もう落っこちてきちゃダメのだ~~~~!」
 みんなが、えっ?て顔をしました。だけど、だけど、すぐにみんなも同じことを思いました。
「お空でずっとかがやいてほしいでち~!」
「また走らされるのはかんべんだぜ~!」
「お空で幸せになるでちゅよ~!」
「お星さまはお空にいるのがいちばんきれいでした~!」
「みんな下から見守っているなの~!」
 みんながそう言い終わると、
 キラ~ン!
 お星さまは大きく光りました。と同時に、東のお空からせまってきた夜明けの光にのみこまれて、そのすがたが見えなくなりました。
 それにしても、なんという六ワンたち、お願いごとは自分たちのことだと思ったら、お空に帰ったお星さまのこと。どこまでも優しい優しいワンたちです。
 ミカド君は心配そうに言いました。
「間に合ったかな?なんだかギリギリで、お願いごとがとどいたかどうか…。」
 ゆう君が言いました。
「きっと…、きっと、大丈夫でちよ。たとえお星さまへのお願いごとが間に合わなくっても、神さまは、きっと神さまは、僕たちがいっしょうけんめいガンバったのを見てくれていたはずでち。そんな僕たちのお願いごとだから、きっとかなえてくれるはずでちよ。」
 ライナ君が続きます。
「お願いごとより、お星さまのためになったことが大切なのだ~。これできっと、次の夜にもキラキラかがやいていられること、これがなによりだいじなのだ~。」
 みんなの目は、まるでお星さまのようにキラキラかがやいていました。

 しばらくして、ライナ君が、深呼吸してこう言いました。
「さあ、歩いてご主人さまのところに帰るのだ~。」
「しかたないでちね。ふしぎな力は使えないでちから、歩いて帰るしかないでち。」
 でも、みんなはなかなか歩き出せません。だって、さっきまでずっと走っていたのです。つかれてつかれて、もう一歩も歩けないくらいだったのです。
「こまったなの~。みんなボロボロで歩けないなの~。」
「でも、このままここにいたんじゃ、にんげんたちに見つかって、のら犬あつかい。場合によっては、こわいにんげんにつかまって、大変なことになっちゃうぜ。とにかく歩くしかないよ。」
 風太君の言葉を聞いてミカド君がはげましましたが、そのミカド君の足もガタガタいって、なかなか歩けません。
「どうしたらいいのだ~!」
 とおぼえようにライナ君がさけんだ、その時です。
「どれどれ、私がみんなを帰してあげようじゃないか。」
 みんなの頭の上から声が聞こえました。
「だ、だれでちゅか?」
 サクヤちゃんがビクビクして聞き返しました。
「こわがらなくていいよ。私は神じゃよ。」
「か、か、か、神さまだって~?」
「何もふしぎなことがあるものか。ここは日本一のお山。私がいるところにいちばん近いお山じゃ。みんなのことは、最初から最後までしっかり見させてもらったよ。みんな本当にいい子たちじゃ。」
 六ワンたちは、お口をあんぐり。突然なことに、何が何だかわかりません。
「さて、そこでごほうびじゃ。みんなをご主人さまのところに帰してあげよう。」
「本当でちか?本当にそんなことできるんでちか?」
「ああ、できるとも。せっかくあんなにがんばったのに、ご主人さまのところへ帰れないのではな。」
「ありがとう、神さま。ありがとう!」
 みんなはホッとしました。
「それでは、いくぞ。えいっ!」
 神さまがそう言うと、みんなは目と目を合わせてにっこり笑って、スウッとすがたを消しました。
 どうやら、それぞれのご主人さまのところへ帰っていったようです。

 もうすっかり朝。ご主人さまたちが目を覚ましました。さあ、朝のお散歩だ、かわいい愛犬を連れておでかけしよう、そう思って自分の愛犬の小屋のところまで来てみると、なんということでしょう、どろだらけできずだらけ、たった一晩で何があったのか…。
 どのおうちのご主人さまも、ただただびっくりです。
 でも、犬たちはとっても満足そうな顔をして、今朝ばかりはスヤスヤとお寝ぼうさんです。











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