サクラの花とサクヤちゃん ~ ぼくらのつぶやきシリーズ ~

ある春のあたたかな日。

お日さまも少し西にかたむいた頃。

シェルティーのサクヤちゃんは、お父さんに連れられて楽しくお散歩。

お父さんの足は、この前の桜並木に向かっています。

サクヤちゃんはあのサクラ並木が大好き。

だって、サクラの花がいっぱい咲いていて、とってもきれいだったからです。

特に、サクヤちゃんのお気に入りの大きなサクラの木は、他のサクラの木よりもいっぱいいっぱいお花をつけていて、それはもうみごとなもの。

だから、足取りもとってもウキウキ。

もうすぐそのサクラ並木に到着…というとき、それまで少し強く吹いていた風が、またさらに強く吹きつけ始めました。

なんだか不安になったサクヤちゃん。

サクラ並木に着いて、やっぱり不安は的中です。

サクラの花びらがたくさん舞い落ちていたんです。

サクヤちゃんはお父さんのリードを強く引っ張って、あのお気に入りのサクラの木の下に急ぎました。

やっぱりそのサクラの木も、残念だけど、たくさん花びらを散らしていました。

いっぱいの花びらがハラハラと舞い落ちて、サクヤちゃんは、なんだか悲しくなってしまいました。

すると、サクヤちゃんは何を思ったのか、いきなり舞い落ちるサクラの花びらに向かって、何度も何度も飛びついては、お口をパクッ、パクッとしはじめました。

パクッ!

パクッ!

「ダメでちゅ!ダメでちゅ!散っちゃダメでちゅ!」

サクヤちゃんはそう言いながら、お口で花びらをつかまえようとしていたのです。

そこへまた風がビューッと吹きました。

「あ~ん、もう!風さんのいじわる~!」

そのサクヤちゃんの声に、風さんも気がつきました。

「おやおや、サクヤちゃん。どうしたの?」

「風さん!そんなに強く吹かないでくだちゃい。サクラのお花が散っちゃうじゃないでちゅか!」

「あら、ごめんなさいね。でも、今日はお空の具合がちょっと悪いから、なんだか強くなってしまうのよ。」

「え~?それじゃあ、サクラのお花が全部散っちゃうでちゅよ~。」

あきらめきれないサクヤちゃん。

だから、またまた何度もお口で散り落ちるサクラの花びらをつかまえようとがんばります。

パクッ!

パクッ!

なかなか捕まえることができなくて、それでもがんばるサクヤちゃん。

そして、ついに、パクッ!

ようやく1枚の花びらをつかまえました。

すると、

「わ~!おじょうず、おじょうず。ワンちゃん、すごいわ。」

どこからか声が聞こえました。

「ん?だれでちゅか?」

その声の主をキョロキョロさがしまわるサクヤちゃん。

「ここよ、ワンちゃんの頭の上のほう。」

そこには、まだ風に負けないで花びらを全部つけた、一輪のサクラのお花がありました。

「今、ワタチに話しかけてくれたのは、あなたでちゅか?」

「ええ。わたしよ。ワンちゃん、じょうずに花びらをつかまえたわね。すごいわ。“にんげん”たちの中には、舞い落ちる花びらをつかまえられたら、幸せになれるっなんて言ってるくらい、それくらいむずかしいのよ。」

「ホントでちゅか?エヘッ。」

おやおや? サクラのお花にほめられて、なんだかてれくさいサクヤちゃん。

でも、すぐに何のためにそんなことをしていたのかを思い出しました。

「そ、そんなことより、ダメでちゅ、ダメでちゅ!まだまだお花をつけていてほしいでちゅ!ワタチ、この木のサクラのお花が大好きなんでちゅ。ずっとずっと咲いたままでいてくだちゃい!」

そのサクヤちゃんの言葉に、少しこまったようなサクラのお花。

「そうね。そういってくれるのはうれしいけれど…。」

「それに、お父さんから聞いたことのある、サクラのお花のけしきをまだ見てないんでちゅ。お月さまの明るい夜、お月さまに照らされたサクラのお花は、なんだか自分で光っているかのようにきれいだって。ワタチ、そのけしきを見てみたいんでちゅ。だから、だから、まだ散らないでくだちゃい。」

「お父さんって、ワンちゃんの横にいる“にんげん”?ご主人さまね。そうだったの。ほんと、うれしいわ。でも、ごめんなさいね。」

そうやってサクヤちゃんとサクラのお花がおはなししている間も、風は吹き続けて、たくさんの花びらを舞い散り落としています。

「……どうしてもダメでちゅか?」

「ええ。しかたがないのよ。春になったあたたかなときに、パッと咲いて、そしてサッと散っていくのがわたしたちサクラの花なの。」

「そうやってお別れして、また来年まで待たなくちゃいけないんでちゅね。さびしくなっちゃうでちゅ。」

「さびしくなんかないわよ。だって、わたしたちが散り落ちた後は、新しい命が生まれるんですから。」

「えっ?新しい命?お花さんは散ってしまうと、死んじゃうんじゃないんでちゅか?」

サクヤちゃんはふしぎでなりませんでした。

だって、お花が散るのは、お花の最後だと思っていたのですから。

「いいえ。お花っていうのはね、さっきの風さんや小さな虫さんたちの力をお借りして、花粉っていうのを運んでもらって、そして新しい命を作っているのよ。わたしたちが散った後には、小さな実をつけて、それが新しい命につながっていくのよ。」

「そうだっんでちゅか!知らなかったでちゅ。」

「わたしたちが咲くのは、その新しい命のためなのよ。それに、その命を作るために、たくさんのみんなで力を合わせてがんばっているんだから。」

「たくさんのみんなの力…でちゅか?」

「ええ。風さんや虫さんが花粉を飛ばしてくれるだけではないの。こうやって花を咲かせるには、夏の間は葉っぱからお日さまの力をいただいているし、根っこからは大地さんからいっぱいの力をいただいているの。そして、冬の間、みんなからいただいた力を、この木の幹の中で、いっぱいいっぱい育んで、花の色を作ったりして、咲かせる準備をしてきたのよ。」

「そしてお花を咲かせて、そして、新しい命へってつながっているんでちゅか?すごいでちゅ!びっくりでちゅ!」

サクヤちゃんは、新しい命って聞いて、なんだかうれしくなっていました。

「それにね、きっとこうやって咲いているのは、ただ新しい命のためだけじゃないって思うの。風さん、虫さん、お日さま、大地さん、そして、こうやってわたしたちをほめてくれるみんな…。そのみんなへの、ありがとうっていう感謝の気持ちで咲くんだと、そう思っているのよ。」

「ありがとうを言いたくて咲くんでちゅか?」

「ええ。だから、わたしたちのことが大好きだっていってくれるワンちゃん、あなたにも。ほんとにありがとうね。」

そういうサクラの花は、なんだかにっこりほほえんでいるようでした。



また、風が少し強くなってきました。

「ワンちゃん。わたしもそろそろ舞い散る時間になったみたい。」

「えっ?…そうでちゅか…。さびしいけど…。でも、新しい命のためなんでちゅよね。」

「そうよ。だから、にっこり笑って、わたしを見送ってね。」

「う~ん。むずかしいでちゅ。」

「あら。笑ってくれなくっちゃいやよ。…そうだ。風さんがいい具合に、夕方のお日さまのほうに向かって吹いていてくれているから…。ねえ、ワンちゃん。わたしが舞い落ちるとき、わたしの花びらだけを見ないで、広く空を見渡すように見てごらんなさい。そして、その後は、地面をずっと遠くまで見るようにしてごらんなさい。それがわたしからの、ワンちゃんへのプレゼントよ。」

「プレゼント?」

サクヤちゃんが、なんのことだろう、そう思っていると、風がサーッと吹いてきました。

すると、あのサクラの花が散り始めました。

「さようなら、ワンちゃん。いっしょにおはなしできて、楽しかったわ。」

「あっ…?さよなら!さよなら!ワタチも楽しかったでちゅ~!」

「さようなら。ほら!わたしばかりを見ていないで、空を見渡して!」

そういわれて、サクヤちゃんは空を見渡すように見ると…!

たくさんのサクラの花びらが舞い散り落ちていました。

そして、その花びらが、お日さまの西日を受けて、キラキラと輝くようだったのです。

まるで、光が舞い落ちるかのようです。

その美しさに、サクヤちゃんはしばらく見とれていました。

「さあ、サクヤ。そろそろおうちに帰ろうか。」

お父さんが声をかけました。

ゆっくり歩き始めるその足もとには…。

いっぱいのサクラの花びらのじゅうたん。

そして、ずっと遠くへと目を向けると、桜色の小道がどこまでも続いていました。

「サクラさん。すてきなプレゼントでちゅ。ありがとう!」

サクヤちゃんは、お父さんにひかれながら、小躍りするように歩いていきました。

そして、

「ワタチも、いつかみんなのために、笑顔いっぱいに咲いてみたいでちゅ。」

西日を受けてまぶしそうに目を細めて、そんなことを思っていました。

画像











ぼくらのつぶやき [ 岡野文寿 ]
楽天ブックス
岡野文寿 風詠社 星雲社発行年月:2011年09月 ページ数:219p サイズ:単行本 ISBN:9


楽天市場 by ぼくらのつぶやき [ 岡野文寿 ] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



ぼくらのつぶやき
風詠社
岡野 文寿

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ぼくらのつぶやき の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

かわいい かわいい かわいい

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック