むかしばなし 其の一

其の一

 それは、もうむかしむかしのことでございます。世は戦乱に明け暮れ、人々は、明日にも、いえ、今日にも戦が起きるのではないかと、たいそうおびえて暮らしておりました。
 そんな中、平穏の時を過ごしている小さなお国がありました。そのお国は、南の大国と東の大国にはさまれておりました。いずれの大国もその小国の地を我が物にしようと企んでおりましたが、山々に囲まれたその小国はまるで自然の要塞で、なかなか攻め入ることはできません。また、先の大殿様は、戦略に長け、家臣たちの信頼も厚く、戦場でもたくさんの武勇伝をお持ちの方というすばらしい武将。敵が南から来ようが東から来ようが、ことごとく退けたほどでございました。その大殿様のご威光で、小さいながらも、南からも東からも一目置かれるお国となったのでございます。
 しかし、大殿様が亡くなられたあとを継がれた殿様は、大の戦ぎらい。東の大国の殿様のごきげんをとり、南の大国の殿様にもごきげんをとり、そうすることで戦にならぬように努めてありましたゆえ、かつての大殿様が築いたご威光はしだいに薄れておりました。ただ、南も東も、自然の要塞ということに手を焼き、また、どちらが先に戦へと動き出すかとにらみ合っておりましたので、幸いにも長きにわたって血の流れるようなことがなかったのでございます。
 その小さなお国に、たいそう美しい姫様がおりました。芽吹姫様でございます。姫様が生まれる頃のこのお国は、日照りが続き、人々の暮らしがつらく苦しいものなっておりました。作物が育たぬことで、人々の心はすさみ、城内にも城下にも険しい顔ばかり。それを悲しく思われた姫の母上様が、作物の芽が吹き、実り豊かになりますように、という祈りを込めて、芽吹姫と名付けられたのでございます。すると、その祈りが天に通じたのでございましょう、姫様が産まれた次の日から雨が降り、川の流れもその姿を取り戻し、秋の実りの頃には、人々の飢えをしのぐにはじゅうぶんな収穫があったのでございます。それゆえ、人々からは、芽吹姫になぞらえて恵み姫とも呼ばれるようになり、それはそれはたいそう愛されておりました。
 ご両親の殿様や母上様はもちろんのこと、先の大殿様にもかわいがられ、姫様はすくすくと育ちました。また、心優しい美しい姫様といううわさは、城下はもちろん、南の大国にも東の大国にも広がっていきました。実は、南にも東にもそれぞれ若様がおり、いずれの国からも姫を嫁に、とのご要望があったほど。しかし、あちらを立てればこちらが立たず、殿様は返答を先延ばしにしておりました。
 そんな姫様のお気に入りのお遊びは、手まり遊び。母上様からいただいた手まりは姫様の宝物。いつでもどこでも持ち歩かれて、手まりができそうな場所を見つけては、手まりで遊んでおりました。手まりで遊んでいる時の姫様のお顔は、たいそうにこやかで、まるでたくさんの花が開いたかのようでございました。もちろん、それを見ている周りの家臣たちも、自然とほほがゆるみ、姫様の手まりの周りには笑顔であふれておりました。
 しかし、そんな笑顔があふれるような手まりがきっかけで、これからお話しする、悲しい悲しいむかしばなしが生まれたのでございます。











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