むかしばなし(改)

遠い遠いある昔
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


戦に荒れたその時代
小さな小さなある国の
小さな城がありまして
姫は手鞠が大好きで
ぽかぽか日向でにこやかに
てんてん手鞠と遊んでた
今日も笑顔で手鞠歌
いつもの調子で手鞠歌
姫はうっかり手を滑らせて
手鞠はころころ堀の中
ぷかぷか浮いて堀の中
それを見つけた下級武士
泳ぎが苦手な下級武士
それでもざぶんと飛び込んで
ずぶぬれネズミになりながら
必死で手鞠を拾い上げ
笑顔で姫に差し出した
さりとてそこは下級武士
姫のお顔を拝むなど
できないままにうつむいて
手鞠を持ったてのひらは
恥ずかしいほど小刻みに
ガタガタブルブル震えてた
そんな震える彼の手を
姫は優しく包み込み
手鞠をそっと受け取って
「ありがとう」って一言を
下賤な彼にくださった
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


次の日 姫は今日もまた
てんてん手鞠で遊んでた
そしてうっかり手を滑らせて
てんてん手鞠は堀の中
ぷかぷか浮いて堀の中
それを見つけた下級武士
泳ぎが苦手な下級武士
それでもざぶんと飛び込んで
ずぶぬれネズミになりながら
必死で手鞠を拾い上げ…
あとは昨日と同じこと
まるで写した絵のように
全部昨日と同じこと
それからそれは毎日の
姫と彼との欠かせない
おかしな遊戯になってきた
手鞠が好きなお姫様
なのに毎日堀の中
てんてん手鞠を落としてる
おかげで彼はそのせいで
泳ぎが得意になってきた
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


そのうち姫と下級武士
身分のことも顧みず
いつしか笑顔でお話しを
交わす仲にもなってきた
ところが周りはそのことを
許すはずなどあるものか
姫は手鞠を禁じられ
彼は居場所を変えられた
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


それから数日経った時
彼はひたすら庭掃除
刀も何も身につけず
雑兵すらも許されず
うちひしがれて庭掃除
そこへふらりとお姫様
彼がいるとはつゆ知らず
犬を連れてのお散歩で
浮かぬ顔して現れた
ばったり出会ったこの二人
さりとて以前のこともあり
何も話さずすれ違う
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


ところが姫は翌日も
犬を連れてのお散歩で
庭にふらりとやってきた
刀を持たぬ下級武士
庭の掃除の下級武士
下賤な彼に会うために
庭にふらりとやってきた
それからそれは毎日の
姫と彼との欠かせない
おかしな日課になってきた
言葉一つも交わさずに
こっそり笑顔を見せるだけ
ところが周りはそのことを
許すはずなどあるものか
姫は散歩を禁じられ
彼は居場所を変えられた
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


手鞠も散歩も禁じられ
姫はそれからふさぎがち
ため息ばかりをもらしてる
彼は働くその場所を
城の外へと追い出され
城下の町の学舎(まなびや)で
子ども相手の指南役
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


姫はある時お忍びで
城下の町に散策に
ため息ばかりのお姫様
それを見ていたお殿様
ちょっとばかりの気晴らしと
城の外へと行くことを
皆には秘密に許された
城下の町の学舎に
働く彼がいることは
姫はつゆとも知らぬまま
おつきの伴も知らぬまま
城下の町にやってきた
無邪気な子どもの声を聞き
姫はふらりと学舎に
久しく見せぬほほえみを
お顔に浮かべて訪れた
そこには例の下級武士
子ども相手に腕相撲
思わぬ形の再会に
二人は言葉も出ぬままに
じっと目と目を見つめ合う
そんな二人を子どもたち
ませた言葉ではやし立て
一方 お伴の者たちは
あたふたしては大慌て
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


まさか城下の賑わいで
二人がばったり出会うとは
お殿様でも予想せず
さすがにこれ以後お忍びは
二度と姫には許されず
周りは姫にお似合いの
由緒正しい家柄の
結婚話を持ちかける
一方 世の中物騒で
どうやら南の大国が
小さな小さなこの国に
戦を仕掛ける話あり
彼は刀を持つことを
この時ばかりは許されて
先陣切って敵方に
切り込む小隊に配属に
そのうち姫の結婚は
別の東の大国の
それは美形な若様に
輿入れするということに
つまりは政略結婚と
城下の町では姫様に
同情の声あふれ出す
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


まさか姫の輿入れの
祝いのその日が戦の日
姫には手練れの強者が
大勢ついてご出発
東に向かう行列を
出陣前の雑兵が
両膝ついてお見送り
見送る兵のその中に
彼の姿があることを
貴女はそっと御簾越しに
見つけて涙を流してた
彼は面を上げられず
悔し涙を流してた
東に向かう行列の
姿が見えなくなった時
戦に向かう兵たちが
南へ南へ進み出す
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


そののち 戦は収まらず
南と東の大国の
大きな戦に広がった
先陣切った小隊の
消息知る者おらぬまま
大きな戦に広がった
南と東の大国は
長引く戦のそのせいで
国力大きく消耗し
歴史の影に消えてった
姫の消息知る者も
だれ一人すらいなくなり
ちまたに妙なこの噂
先陣切った下級武士
命からがら助かって
東の国にやってきた
広がる戦火を憂いては
東の国でも兵となり
南の国と戦った
東の国の若様は
戦の中であっけなく
小兵の槍の錆となる
たった一人の身になった
姫の命を救おうと
下級武士の分際で
城の中へと潜り込み
まるでさらっていくように
姫を城下へ連れ去って
さらに遠くへ旅立った
そんな噂がちらほらと
一時は流れはしていたが
それは二人のなれそめを
知った一部の者たちが
作った話ということで
本当のところは誰一人
知る者なぞはいはしない
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士


下賤な武士とお姫様
身分の違うこの二人
出会うはずなどあるものか
出会うことなどありえない
それでも出会ったこの二人
交わした言葉も少なくて
互いの思いも告げられず
戦火に散った恋話
哀しい哀しい恋話
結ばれることない恋人同士
報われることない恋人同士















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この記事へのコメント

  • 織姫

    いつも助けられてばかりのお姫様は今度は武士さまを助けようしました。
    でもお姫様は何のお役にも立てなかった。
    自分は必要とされてないと感じた。
    そして悲しみ去っていきました。
    2012年04月20日 16:07
  • 織姫様>
    コメント、ありがとうございます。
    いやいや、この下級武士にとっては、姫の存在自体が救いだったはず。
    姫がいらっしゃる、ただそれだけが必要なことだったと思います。
    姫が去ってはいけないですよ~。
    下級武士がかわいそうです。
    2012年04月21日 22:02

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