創作:仮題「ススムとタロー」 その4

ススムの泣き声とタローの鳴き声は、3月末とはいっても冷たく乾いた夜空の空気に広く響き渡った。
交番の周辺の家々でも、その声に気づいた人も多かった。
もちろん、交番の中にまでもよく響いていた。
交番の奥から、巡査が二人、慌てて飛び出してきた。
近所からも数人様子をうかがいに出てきた人もいた。
一人の若い巡査が、早速毛布にくるまれた赤ちゃんを見つけた。
「池上さん。赤ん坊だ!」
言われて、池上と呼ばれた巡査は、驚いた。
「なに?ホントか?柾木。すぐ中に連れてこい。」
柾木と呼ばれた若い方の巡査は、赤ちゃんを抱き上げて、次に犬に気がついた。
「池上さん。い、犬は?」
「何だって?犬?」
池上は柾木のそばに駆け寄った。
犬の姿を見つけ、そういえば、さっき犬がほえていたことを思い出した。
「この子の家の犬かな?」
池上はそう言いながら、今度は赤ちゃんの方に目を転じると、赤ちゃんの脇にあった封筒を見つけた。
すぐにそれを開き、一読すると、
「まいったな。この子は捨て子だ。」
とだれにともなくつぶやいた。
「捨て子って…。この、まだ寒いのに、ですか。」
驚く柾木を見て、池上はこう言った。
「追い詰められた人間にゃ、寒いも暑いもないからな。とにかく、この子は中に入れてやれ。」
「犬は、どうします?」
さて、ここで池上は困惑した。
手紙にはススムのことは書いてあるが、犬のことは書いていない。
ということは、この子の犬ではない可能委が高い。
ただ、この犬がほえていたのは、この子を助けようと思ってのことだったのではないか、とも思った。
そう迷っていると、さきほど出てきた近所の奥さんが、こう後押しした。
「きっと、この子を助けようと思ってほえてたんだろ。いっしょに入れておやりよ。寒いのに、この子だけ外なんてかわいそうじゃあないか。」
池上は、その後押しを受けて、犬を交番の中に導いた。
その時、きらりと光った首輪のプレートに気がついた。
プレートには、「タロー」と刻まれていた。
池上は、タローの頭をなでながら、
「よしよし。タローっていうのか。お前がこの子を助けようと、俺たちを呼んだんだな。いい子だな。タロー。」
タローの冷え切った体には、池上の大きなあったかい手がうれしかった。
交番の中の暖房のあたたかさよりも、池上の手のぬくもりの方が、なによりうれしかった。
さっきまでさめざめと感じられた交番の中の蛍光灯も、こうして池上と柾木、そしたススムといっしょにいると、なんだかあったかくも感じられた。
「あんたたち。何してるだね。中に入れただけでホッとしてるんじゃないよ。その赤ちゃんのおむつは大丈夫買い?ミルクだってあげなくちゃいけないだろ?そのワンちゃんだって、あ~あ、かわいそうに、あちこち汚れてるじゃないか、おなかも空いてるだろうに。」
さっきの奥さんまで入ってきて、なにやらいろい世話を焼き始めた。
「奥さん、ミルクなんて交番にはないですよ。」
あわただしい雰囲気に飲まれそうになった柾木がそう言うと
「だったら、任せなさいって。ほら、近所には赤ちゃん抱えた家が何軒もあるんだよ。外にいる連中に呼びかけてくるよ。ついでに、このワンちゃんのご飯もね。」
と、奥さんが勝手にその場を仕切りだした。
それまで冷え切っていたタローの気持ちが、どんどん和んでいった。
一方、ススムは泣き止まない。
タローは、泣いているススムに呼びかけた。
「ススム。大丈夫だよ。みんなが、みんなが、助けてくれるみたい。」
泣きながら、ススムはタローに答えた。
「うん。みんなが助けてくれるね。」
「だったら、何で泣いてるの?」
「だって…、なんだかうれしくって、ホッとして…。」
ススムはタローにそう告げると、よりいっそう強く泣き出した。
その泣き声に、交番の中はいよいよ慌ただしくなった。
てんやわんやの大騒ぎを、タローは、目を細めて眺めていた。



………(続く)



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