創作:仮題「ススムとタロー」 その2

もう一つの別れ

タローがさしかかった街にも、さびしく冷たい風が吹いていた。
日はすでに暮れ、辺りは夕闇が墨を流したように広がっていった。
その街の片隅にある交番の前に、一人の女性がいた。
交番の赤い灯りに照らされた彼女の顔には、悲しみと失意が刻み込まれていた。
彼女の腕には、毛布にくるまれている赤ちゃんがいた。
彼女の顔とは対照的に、赤ちゃんの顔はただあどけなく、無垢で、赤い光を受けて輝いているようにも見えた。
その顔がまぶしいかのように、女性はまともに赤ちゃんの顔を見ることはできなかった。
交番の中にはだれもいなかった。
蛍光灯だけが寒々しく光っていた。
その中の様子を確かめるようにした後、彼女はそっと赤ちゃんを毛布ごと交番の入り口脇に置いた。
「ごめんね。本当にごめんね。ススム。」
赤ちゃんのほほをなでながらそう言うと、それまでがまんしていた涙が堰を切ったように流れ出た。

その女性は、交番前に我が子を捨てにきたのだった。
生活苦に追われ、とことん追い詰められたのだろう。
詳しい事情は分からないし、今後、彼女とその赤ちゃんは一切関わることがなかったことから、詳細を追う必要はないだろうが、その判断がいかに誤りに満ちたものであろうと、彼女の判断は我が子を手放すことであった。
赤ちゃんの横にそっと置かれた手紙にも、
「身勝手なこと、本当にごめんなさい。でも、私といても幸せになれない子です。ぜひ、この子を幸せにしてあげてください。」
という文面があった。
彼女はこの子を育てながら生活していく自信を失っていたのであろうし、他に頼れる者もいなかったのであろう、それがために、我が子を手放す決意をしたようである。

赤ちゃんのほほを離れた彼女の手は、何度も我が子を抱き上げようとしては、ためらい、そして、あきらめていた。
ゆっくり立ち上がった彼女は、今度は我が子を見ようともせず、振り返らずにその場を走り去った。
嗚咽が聞こえた。
夕闇の静かな街に、嗚咽が響き、そして遠ざかっていった。



………(続く)

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この記事へのコメント

  • koji

    続きが気になりますねえ。

    絵本作家の次は作家ですか?

    素晴らしいです。

    ボクも見習いたいなあ。

    続編を期待しています。
    2011年08月21日 06:48
  • koji様>
    コメント、ありがとうございます。
    さてさて、どう展開していくか、僕にも分かりません。
    作家、というほどではありません。
    何となく書き綴っていきます。
    2011年08月21日 18:51

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