風さんからの悲しいおはなし

我が家の愛犬、柴犬ミックスのミカド君。
そのミカド君には聞こえていました。
あちこちで悲鳴を上げている、仲間たちの声が…。
3月11日のあのできごと。
遠くにいるはずの、聞こえるはずがない声が聞こえていました。
動物たちには、ぼくたちが知らない力を持っているようです。
だから、聞こえたんです。
助けを求める、たくさんの声が…。
ミカド君と同じ犬たちが、あるいは猫たちが、かごの中の鳥たちが、草や花や、大きな木だって、そしてもちろん「にんげん」たちだって、たくさんたくさん悲しい叫びを上げていました。
聞こえているのに何もできない自分を、ミカド君は悔しく思っていました。

ミカド君はあちこちにテレパシーを飛ばしました。
仲間を呼びました。
自分たちがどうすればいいのか、みんなと一緒に考えたかったんです。
その呼びかけに、たくさんの仲間たちが応えてくれました。
あるジャーマンシェパードの男の子が、真っ先にミカド君にこう言いました。
「ミカド君。オイラたちではどうすることもできなかったのだ~。1人で悲しい気持ちになってはいけないのだ~。」
でも、ミカド君はこう言いました。
「だって、君にも聞こえたでしょ?あの仲間たちの悲しい叫びが。あの叫びが耳から離れないんだよ。」
「確かにオイラにも聞こえたのだ~。『にんげん』たちの叫びも…。オイラたちの仲間をいつもかわいがってくれていた『にんげん』も、大きな波にさらわれてしまったのだ~。苦しんでいる叫びは、オイラの耳にもはっきり届いたのだ~。」
2人は、それから黙ってしまいました。

今度は、あるシェルティーの男の子が声をかけました。
「でも、どうしてこんなことになってしまったんでちかね?だれか悪いことをしたんでちか?それで神様が怒ったんでちか?ぼくにはそこがわからないでち。」
「もし、だれかが悪いことをして、それで罪もない命が失われるのなら、神様はあまりにもイジワルなのだ~!」
ジャーマンシェパードの男の子は怒ったように言いました。
そして、こう続けました。
「神様がいるなら、みんなを返してほしいのだ~!全部、元どおりにしてほしいのだ~!」
シェルティーの男の子も、ミカド君も、それを聞いて、ただ下を向いてうなずくばかりでした。

トイプードルの女の子もテレパシーに参加しました。
「みんな、悲しいでしゅね。もし、わたしのお母さんが、そんな形でいなくなったら、そう思っただけで、わたしは悲しくて悲しくてたまらないでしゅ。」
シェルティーの女の子も同じことを言いました。
「ワタチも、お父さんがあんな形でいなくなったら、どうしていいかわからなくって、きっとずっと泣いちゃうでちゅ~!」
ラフコリーの男の子も同じです。
「僕のやさしいお母さんには、ぜったいいなくなってほしくないなの~!」

みんなみんな、悲しい声です。
みんなみんな、切ない思いです。
みんなみんな、うつむいて、みんなみんな…。
いつしか、黙ってしまいました。

「みんな!泣いてばかりいちゃダメ!」
突然、ヒューという音とともに、声が聞こえてきました。
みんなは、ハッと顔を上げました。
最初にその声の正体に気がついたのは、ミカド君でした。
「風さん!」
そう、ミカド君の大好きな風さんです。
風さんが、みんなの話をこっさり聞いていたんです。
「みんな!悲しんでばかりいても、何も進まないわよ!」
風さんは強く吹いて、そう言うと、今度は急に弱々しく吹き始めました。
「だけど、ごめんなさいね。わたしたちの力が大きすぎて…。わたしたち自然の仲間たちの力が、みんなよりとっても大きいから、こんなことになってしまったの。本当にごめんなさいね。」
ジャーマンシェパードの男の子が、キョトンとして聞き返しました。
「どういうことなのだ~?大きな力って、風さんたちは、そんなに力持ちなのか?」
それを聞いて、風さんは、今度は優しく吹いて、こう言ったのです。
「この星は、あなたたちが立っているこの星は、とってもとっても大きな生き物だと思ってほしいの。わたしは、この大きな生き物の上をあちこち吹き回っているのよ。そして、時には狂ったように吹いて、あなたたちを苦しめることだってあるのよ。」
シェルティーの男の子が驚きました。
「風さんが狂ったように吹いたら、とんでもないことになるでち!僕なんか飛ばされちゃうでちよ。」
「そうね。わたしだって、強く吹きたくって吹いているわけではないの。この星がいろいろ動く度に、わたしたちはそんなことをしてしまうの。」
ラフコリーの男の子が聞きました。
「だったら、今度の大きなできごとはどういうことなの~?」
「それはね。大地さんのしゃっくりみたいなものなのよ。」
「しゃっくり~?」
みんな、あ然としてしまいました。
大地さんのしゃっくりが、何でこんなことになってしまったのでしょう。
すると、突然、大地さんがみんなの足下から話しかけました。
「ごめんよ、みんな。僕にとってはしゃっくりだけど、みんなにとっては大ごとなんだよ。」
女の子たちが怒ったように聞き返します。
「どうしてでしゅ?」
「なぜでちゅか?」
すると、遠くから海さんが話しかけてきました。
「考えてみてごらんなさい。あなたたちがしゃっくりをしたとして、もし、小さな小さな虫があなたたちに止まっていたら、その虫はどう思うかしら?」
みんな、想像してみました。
確かに、自分に止まっている小さな虫は、ちょっと動いただけで、ビックリして飛んでいってしまいます。
風さんが、また優しく吹きかけて言いました。
「この星にとっては、ほんの小さな動きでも、この星に比べたら小っちゃな小っちゃなあなたたちには、ものすごく大きな災害になってしまうの。それだけ、わたしたち自然の仲間には、とてつもなく大きな力を秘めているのよ。」
ミカド君は、念を押すようにこう言いました。
「だったら、わざとじゃないんだよね?わざとみんなを犠牲にしたわけじゃなかったんだね?」
風さんも大地さんも海さんも、その問いかけに、しばらく黙り込んでしまいました。

それから、最初に大地さんが答えました。
「決してわざとじゃないよ。みんなを犠牲にしようなんて、僕たちは思ってはいない。」
海さんが続きました。
「ただわたしたちが大きすぎるだけ。大きすぎるから、みんなのような小さな命を奪ってしまうことがあるの。」
最後に、風さんが、こう言って吹き去っていきました。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。謝っても謝りきれるものではないけれど…。でも、泣いてばかりいないで。うつむかないで。これから、何ができるかを考えて歩き出すのよ!あなたたちは強いのよ!だって、この大きな星から生まれてきた、大切な大切な命なんですから…!」

「だったら…、犠牲になった命は、何のために生まれてきたのだ~?それだけがまだ分からないのだ~。」
ジャーマンシェパードの男の子の独り言に、ミカド君は、ふと、こんなことを言いました。
「生まれてくる喜びを知るため、じゃないかな?生きている喜びを知るため、じゃないかな?」
「…どういうことなのだ~?」
「この世に生まれてきて、お日様や青空を見て、ああ、生まれてきてよかった、て、きっと思うんじゃないかな?そして、みんなにかわいがられたり、笑ったり、なぐさめ合ったりして、生きていてよかった、て時が、みんなきっとあったと思う。ぼくだってあるもの。そんな小さな喜びのために生まれてきたんだよ。」
「でも、大地さんのしゃっくりで、全部オジャンなのだぞ?」
すると、シェルティーの男の子がこう言いました。
「だったら、残った僕らが、みんなの喜びを受け継ぐでち。そして、もっともっとみんなが喜べる世界を作っていくでち!」
トイプードルの女の子も続きました。
「そうでしゅね。立ち止まっていたら、みんなで喜べる世界なんて作れないでしゅ!」
シェルティーの女の子も言いました。
「天国に行っちゃったみんなも、泣いてばかりいるワタチたちを見て、きっと怒ってるでちゅ!お父さんみたいな『にんげん』たちにできることは『にんげん』たちにやってもらって、ワタチたちは、もっともっと笑顔の輪を広げていくしかないでちゅ!」
ジャーマンシェパードの男の子も納得しました。
「そうなのだな。オイラたちにはオイラたちにできることをがんばって、新しい世界を作っていくのだ~!」
みんな、キリッと上を向きました。
空には満天の星。
その星の輝きひとつひとつが、あのできごとで犠牲になった命のように、キラキラときれいに輝いて、そして、みんなにささやきました。
「がんばって!みんな、こっちで応援しているから!」

テレパシー会議は解散しました。
ただ1人、ミカド君は、まだ星空を見上げていました。
そして、こうつぶやきました。
「みんな、見ててね。ぼくたちがみんなの分、いっぱいにがんばるから……!」



























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この記事へのコメント

  • はるちん

    今回の地震は色々な事を考えさせるものでした。人間の強欲に鉄槌が下されたばかりか、そのせいで動物まで巻き添えをくって哀しいです。
    2011年03月21日 23:06
  • はるちん様>
    コメント、ありがとうございます。
    この星の大自然が命を生み、この星の大自然が命を奪う。それは抗えないことです。
    でも、この星が生んだ命だからこそ、強いと信じています。
    真正面から大自然と向き合うこと。
    目を背けずに、謙虚に、そして堂々と向き合うこと。
    人間や動物、植物、今回犠牲になった命は等しく尊いものです。
    立ち止まってはいられません。
    犠牲になった尊い命たちはこれからも僕たちを見守っています。
    それに報いるために、一歩ずつしっかりと歩いていこう、そう思います。
    2011年03月22日 01:44
  • koji

    本当に悲しいですよね。

    でも生き残ったボクたちには、頑張らなきゃいけない。

    自分には何ができるのか、それをずっと考え続けています。
    2011年03月23日 18:52
  • koji様>
    コメント、ありがとうございます。
    生き残った僕らには、生き残った理由と使命があります。
    それを果たしていくだけですね。
    2011年03月23日 19:06
  • あやの姫

    こないだは、私のブログにコメント下さり・・ありがとうございました

    こちらに訪問するのが遅くなってしまい、本当に申し訳ありません

    今回の地震・・本当に、色んな方が犠牲になりましたよね
    考えれば考えるホド、辛いです

    私の方も、次から次へと問題が出てきて・・今回の震災の恐ろしさを痛感しています

    けど、私も生き残りました
    頑張らないとですね

    前進あるのみですね
    2011年04月01日 16:07
  • あやの姫様>
    コメント、ありがとうございます。
    被災されて大変な思いをされたことを読ませていただき、何かできることはないかと、模索しています。
    すぐにそちらに行っても、まだ役に立てる僕ではありませんが、必ず近いうちに仙台方面に向かおうと思っています。
    生き残った力で、星たちの声援を胸に、前を向いていきましょう。
    2011年04月01日 17:32

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