風の子守唄 ~その日・風の子守唄~ (完結)

その日

とうとう一番奥のお部屋に移された。
「しょくいん」さんは、もう何も言わなかった。
ただ、とても苦しそうな顔だった。
つらそうな顔だった。

「あいごだんたい」の「にんげん」たちが来ているようだけど、僕らのお部屋まではだれもこなかった。
だけど、僕は、おうちの「にんげん」を信じてるんだ。
今日も入り口のところでお座りをして。お行儀よく待っている。
きっと来る、来てくれるはずだ!

だって、僕たちは家族だったんだもん!

……だけど、来なかった。


あの叫び声が聞こえた、あの時間が近づいてきた。
何が起こるんだろう?
何をされるんだろう?
僕たちは、もうどうしていいか分からなかった。
僕はお座りをして待つしかなかった。
女の子は泣いている。
男の子は、部屋の中をうろうろしている。
待つんだ、僕は、僕だけは待つんだ!

“さぁ、こっちへお入り。”
「しょくいん」さんたちが、大きな鉄でできたカゴを用意して、僕たちに入るように言っている。
僕はいい子だ!
ちゃんと言うことを聞くんだ!
怖かったけど、一番最初に入った。
女の子と男の子は、しばらくだだをこねていたけれど、最後は「しょくいん」さんたちにカゴに入れられた。
「どうなるのかしら?」
「もう、怖くて仕方がないよ!」
みんなガタガタ震えている。
僕だって震えが止まらないんだ。
あの叫び声、「助けて!」の声。
僕らも何かされるのかな?
助けてって叫ぶようなことをされるのかな?

“ガス室の準備、できました。”
「しょくいん」さんがそう言うと、僕らのお部屋が静かに動き出した。
「がすしつ」って何?
僕たちは、その「がすしつ」に入れられるの?
あの、真っ暗なお部屋がそうなの?
真っ暗なお部屋に向かって、カゴが動いている!
ねえ、どこへ連れていくの?
あれが「がすしつ」なの?
あそこで何が起こるの!?
ねえ、ねえ!
それまでいい子にしていたけれど、もう我慢できなくなった。
叫んだ!
思いっきり叫んだ!
「助けて!」

「がすしつ」の扉が閉まっちゃった!
「がすしつ」に閉じ込められちゃった!
ああ、ごめんなさい!
最後にいい子にしなかったから、こんなことになっちゃったんだ!
ごめんなさい!
ごめんなさい!
もう、悪い子にしません!
いい子にします!
本当にいい子にします!
何?
何のにおい?
シューッて、へんな空気が流れてきた!
変なにおい!
苦しい…、苦しいよ…!
助けてっ!
助けてっ!
ごめんなさい!
本当にごめんなさい!
いい子にします!
あぁ、息が苦しい!
女の子も男の子も、バタッと倒れちゃった!
何でこんなことするの?
悪い子だから?
直すから!
いい子になるから!
あ、小さな窓から「しょくいん」さんたちが泣いて見ている。
手を合わせている。
ねぇ、助けて!
助け…て……!
……苦しい…!

ごめんなさい……。
ごめんな……さ……。
いい…子に………。
ごめ…ん…………。

……………………。

…………………。

………………。

……………。

…………。

………。

……。

…。

‥。














「……先輩…。この子たち、天国に行けたかな?」
「ああ、行ったとも。この子らにゃあ、何の罪もないんだ。」
「もう、もう、苦しいっすよ、俺。こんな毎日…。」
「ああ、俺もだ。だけどな、仕事なんだ。悔しいけれど、これが俺たちの仕事なんだ。毎日ボロボロ泣きながら、それでも涙は涸れやしねぇ。そんな仕事をしているんだ。」
「こんなこと、こんなことしていいんですかねぇ?」
「悪いに決まってるだろ!」
「……!」
「……だけどな、捨てる人間がいるかぎり、この仕事が続くんだ。放っておいて野犬だらけになったら、この子らも、他の動物も、それに人間も、大勢迷惑がかかるんだ。生態系が乱れたり、その~、なんだ……。」
「それを俺たちが決めていいんですか?」
「仕方がねぇだろ!だったら、こいつらまとめて、これから来る子らもまとめて、お前が飼えるのか?飼えっこないだろうよ。ここでだって、税金でやってるんだ。もし、全部生かしておくなら生かしてやりてぇさ。でも、エサ代とか世話代とか、他の手間賃とか、だれが出してくれるんだよ?」
「………。」
「……俺たちは地獄に行けばいいんだ。その代わり、この子たちが天国に行ってくれればな……。そう思うしかねぇだろ?」
「……はい、先輩。俺……、それだったら進んで地獄に行きますよ!」
「あぁ、俺もだ。……さあ、この子たちを荼毘に付してやろうじゃないか。丁寧にな。」












風の子守唄

ああ、とうとう「けむり」になってしまったんだね。
ごめんね、何もしてあげられなくて。
「あいごだんたい」やら「さとおや」やら、何度も背中を押したのだけれど、お前たちには目がいかなかったんだね。
さぁ、私にお乗り。
いっしょに行きましょうね。
あのおばあさんも待っているわよ。
高く
高く
どこまでも高く、
私が連れてってあげようね。

ほら、天国の入り口が見えてきただろう。

もう、苦しまなくてもいいんだよ。

もう泣かなくてもいいんだよ。

そこでゆっくりおやすみなさい。

にっこり笑っておやすみなさい。


おばあさんが

ね、

見えただろ……?












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