風の子守唄 ~その前の晩~

その前の晩

あれから何日過ぎたのだろう?
もう、待ちくたびれちゃった。
心の中はボロボロだよ。
おんなじことの繰り返し。
お部屋が隣に移る。
「しょくいん」さんは謝ってばかり。
「あいごだんたい」の「にんげん」や「さとおや」という人は来るけれど、もう、僕らのいるような奥のお部屋まではやってこない。
たまにのぞきに来るけれど、もうだれも連れていかなくなった。
僕たちは3人ぼっち。
そして、あの怖い怖い叫び声が、日に日に近くに聞こえてくる。
だから、もう何て叫んでいるか、はっきり聞き取れるんだ。
「助けて!」
だけど、すぐに静かになる。
その後のことは分からない。
いつものように、「しょくいん」さんたちが泣いているだけ。

でも、僕は、他の2人がどう言ったって、入り口でお座りして待ってるんだ。
いい子にして待ってるんだ。
もう、だれにも吠えないよ。
わがままだって言ってない。
静かにする時は、ちゃんと静かにできるんだ。
「しょくいん」さんに頭をなでてもらえて、それはとてもあたたかくて、だから素直に甘えてるんだ。

ああ、だけど…。
明日は一番奥のお部屋に移るんだ。
僕たちはどうなるんだろう?
「助けて!」って、何が起きているんだろう?
怖くて怖くて、みんないっしょにかたまっているけれど、だれも眠れないんだ。

辺りが静かになると、また、風さんが歌い出した。

♪~おやすみ、おやすみ、よい子たち
  明日は私がお見送り
神様が必ず待っているよ
  おやすみ、おやすみ、よい子たち
  泣いて泣いて泣き疲れてもいい
  最後にぐっすりおやすみなさい~♪

今までで一番悲しい歌声だった。
僕は、大きな声で風さんを呼び止めた。
「風さん…!何か知ってるの?明日、僕たちはどうなるの?!」
「………。」
「風さん、黙ってないで何か言ってよ!」
「……ぼうや、そんなことは聞かないでおくれ。」
「なぜ?なぜなの?おうちの『にんげん』も来てくれない。いい子にしてるのに来てくれない。そして、僕たちも明日『助けて!』って叫ぶの?」
「……ぼうや、そんなことは聞かないでおくれ。」
「……だったら、一つだけ教えて。あのおばあさんはどこに行ったの?」
「ぼうや、きっと、きっとね……、おばあさんはお前たちを待っているよ。」
「僕たちを待ってる?」
「ちゃんと送ってあげるから。おばあさんのところに送ってあげるから。だから、もう悲しいことは聞かないでおくれ。」
「……風さん。」
僕は何が何だか分からなかった。
だけど、風さんの悲しそうな声を聞いて、もう何も聞くことができなかった。
風さんは通り過ぎて行ってしまった。
僕は、僕たち3人は、冷たくなりそうな心を一生懸命我慢して、泣き出しそうなのを一生懸命我慢して、一つに小さくかたまった。
「うっう…。」
だけど、女の子が泣き出した。
「大丈夫かい?」
「もう、だめ…。泣いてもいいかしら……。」
「……泣いちゃおう、泣いちゃってもいいよ、きっと。」
「怒られたっていいよ、明日は一番奥のお部屋なんだし。」
怖くて怖くて、それを少しでも紛らわせたくて、僕たちは泣いた。
思いっきり泣いた。
だれも怒らなかった。
だれにも怒られなかった。
泣いて、泣いて、泣き疲れて…。

僕たちはいつの間にか眠ってしまったんだ…。












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